【この記事のポイント】
- 課題: 人手で確認していた簡易エレベータの現在位置や稼働状況を、遠隔でリアルタイムに把握したい。
- 解決策: 既存の RS-422 制御信号を自社開発の IoT ユニットで画像情報に変換し、社内ネットワークへリアルタイム配信。
- 成果: どの PC・タブレットからでもエレベータの状況を即座に確認可能となり、巡回工数の削減と業務効率化を実現。
1. お客様の課題:人手による確認作業が、省人化の足かせに
製造業の DX 推進が求められる中、「旧式の設備をどうやってネットワークに繋ぐか」という課題は多くの企業様が抱えています。
今回ご相談いただいた製造業のお客様も、工場内の簡易エレベータの運用において、以下のような課題を抱えていらっしゃいました。
- エレベータの現在位置が不明: 監視用のインターフェースがなく、エレベータが今何階にあるのか、どちらへ向かっているのかを事務所から把握できなかった。
- 非効率な確認作業: 作業員がエレベータを呼び出してもなかなか来ない場合、無線で状況を確認するという手間が発生していた。
- 省人化の阻害: このような日々の細かな確認作業が積み重なり、本来注力すべき業務を圧迫。省人化を推進する上での大きな障壁となっていました。
この課題に対し、お客様の DX 推進部門から「既存のエレベータ制御(RS-422)を活かしつつ、低コストで遠隔監視できる仕組みを構築したい」とのご要望をいただきました。
2. 採用の決め手:カスタム開発力とワンストップ対応
複数のベンダーを比較検討された中で、最終的に弊社にご依頼いただけた決め手は、以下の 3 点でした。
- 柔軟なカスタム開発: 既製品では実現できない「RS-422 信号を解析し、状況を可視化してネットワーク配信する」という特定の要件に対し、IoT ユニットの自社開発で対応できる点を評価いただきました。
- 迅速な導入: 要件定義から機器設計、現地試運転までを約 1.5 ヶ月という短納期で実現できるスケジュール感を提示しました。
- 一括対応による手間の削減: お客様のやりたいことをヒアリングし、最適なシステム構成の提案、機器の選定・調達、開発、現地での調整まで、すべてをワンストップで提供できる点を信頼いただきました。
3. システム構成:RS-422 信号を RTSP 映像ストリームに変換
本システムは、エレベータの制御ユニットと操作ユニット間を流れる RS-422 のシリアル通信回路上に、IoT ユニットを並列に接続し RS-422 信号を受信し、その情報を元に動的な画像を生成。標準的な映像配信プロトコルである RTSP で社内ネットワークに配信する構成です。
【IoT ユニット主要仕様】
項目 | 内容 |
---|---|
受信信号 | RS-422 (TIA/EIA-422), 9600 bps |
画像生成 | Python と画像処理ライブラリ(Pillow)で PNG 画像を動的生成 |
エンコード | 生成した画像を H.264 形式でエンコード |
配信プロトコル | RTSP (GStreamer を利用), 15 fps |
ネットワーク | 100BASE-TX, PoE 給電対応 |
表示方法 | 市販の PC、タブレット、HDMI モニタ(要デコーダ)で閲覧可能 |
RTSP とは? Real Time Streaming Protocol の略。IP ネットワーク上で映像や音声を低遅延でストリーミング配信するための標準プロトコルです。VLC メディアプレーヤーのような汎用的なソフトウェアから、産業用の監視カメラシステムまで幅広く採用されています。
4. 技術的ハイライト:安定稼働と拡張性を支えるポイント
本システムの安定稼働と高い拡張性は、以下の技術的選択によって支えられています。
シリアルデータと映像のリアルタイム連携 エレベーターから送られてくる RS-422 のシリアル信号(現在階、進行方向、積載情報など)を Raspberry Pi でリアルタイムに解析。Python の画像処理ライブラリPillowを用いて、これらの情報をテキストとして背景画像上に動的に描画(オーバーレイ)します。これにより、物理的なセンサーデータと映像を直感的に結びつけた監視が可能になります。
GStreamer による柔軟なストリーミング配信 強力なマルチメディアフレームワークであるGStreamerを採用し、生成した画像を H.264 形式へ効率的にエンコード。そして RTSP プロトコルで配信するパイプラインを構築しています。これにより、低遅延での安定した映像配信を実現し、VLC メディアプレーヤーをはじめとする様々な既存の視聴環境や監視システムへ容易に統合できます。
オープンソースと汎用ハードウェアによる高い拡張性とコスト効率 システムの中核には、入手しやすいRaspberry Piを採用。ソフトウェアもPythonをベースに、PySerial, Pillow, GStreamerといった実績のあるオープンソースライブラリで構成しています。これにより、開発コストを抑えつつ、お客様の特定の要件に合わせた機能追加やカスタマイズにも柔軟に対応可能な、スケーラビリティの高いシステムを実現しました。
開発の舞台裏:さらに詳しい技術情報はこちら
本システムの開発における、より詳細な技術的背景や試行錯誤の過程は、弊社の技術ブログで公開しています。ご興味のある方は、ぜひ ご覧ください。
技術ブログ ①:【第 1 回】エレベーター通信シミュレーター開発記録:Python で作る RS422 送信アプリ エレベーターの ENQ 通信を再現する専用シミュレーターを Python で開発。実機が用意できない開発初期に、仕様書に基づいて正確な信号を送信するためのアプリケーション構築プロセスを紹介しています。
技術ブログ ②:【第 2 回】エレベーター通信シミュレーター開発記録:Python で作る RS422 受信モニタリングツール Raspberry Pi で ENQ 信号を正しく受信できているかを確認するためのモニタリングツールを解説。PySerial と termios を用いた受信タイミングの制御方法について詳しく説明しています。
技術ブログ ③:【第 3 回】エレベーター通信シミュレーター開発記録:受信した信号から映像を生成し、RTSP で配信する 受信した ENQ 信号をもとに現在階や行先階を自動で映像化し、RTSP でリアルタイム配信する監視システムの構築方法を紹介。映像生成から RTSP 配信までのアーキテクチャ全体を解説しています。
関連技術ブログ:他の開発事例もご紹介
弊社では、本システム以外にもさまざまな技術課題に挑戦してきました。以下の記事では、各種開発プロジェクトの詳細を公開しています。ご興味のある方はぜひご覧ください。
技術ブログ ①:Raspberry Pi Pico で作る RS-232 ⇔ USB HDMI 切替システム 2 台の Raspberry Pi Pico を RS-232 で接続し、スイッチ入力に応じて HDMI 切り替え機へシリアル信号を送信する仕組みを解説。回路構成からファームウェア、実装時の注意点まで詳しく紹介します。
技術ブログ ②:ローカルネットワークでの PTZ カメラ操作ダッシュボード構築 PTZ カメラを LAN 内で操作するためのフロントエンド・バックエンド構成を解説。ブラウザからライブ映像を見ながら直感的に PTZ 操作できる環境を作る方法をステップごとに紹介します。
技術ブログ ③:GCP を活用したクラウド経由の PTZ カメラ遠隔操作システム クラウド上のダッシュボードから、Raspberry Pi 経由でローカルの PTZ カメラを操作する仕組みを解説。GCP でのサーバー構築や Raspberry Pi との通信方法、セキュリティ面での工夫についても取り上げています。
5. 導入ステップと概算コスト
本案件は、以下のステップと費用感で実施いたしました。
フェーズ | 主な作業 | 期間 | 費用(税別) |
---|---|---|---|
1. 要件定義・仕様策定 | 課題ヒアリング、現地調査、システム仕様の確定 | 1 週間 | ー |
2. IoT ユニット開発 | ハードウェア設計、ソフトウェア開発、試作 | 3 週間 | 30 万円 |
3. 機器製造・テスト | ユニット製造、部材調達、社内での動作検証 | 1 週間 | 20 万円 |
4. 現地導入 | 機器設置、ネットワーク設定、試運転調整 | 2 日間 | 20 万円 |
合計 | 約 1.5 ヶ月 | 70 万円 |
6. アイゼックが選ばれる理由:20 年超の映像伝送技術が強みです
弊社は、創業から 20 年以上にわたり、映像伝送・変換に関する技術とノウハウを蓄積してまいりました。放送業界向けの専門的な機器から、今回のような産業用途のカスタム開発まで、幅広い実績がございます。
- レガシーと IP のハイブリッド対応
- 要件に合わせた"一品モノ"の受託開発
- 国内外の多様なメーカー機器の知見と調達力
お客様の「こんなことはできないか?」というアイデアを、技術的な知見と柔軟な発想で形にすること。それが私たちの強みです。
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「自社のレガシー設備でも、同じような課題がある」 「まずは、どんなことができるのか話を聞いてみたい」
このようにお考えのお客様は、ぜひお気軽にご相談ください。 お客様の課題に合わせた解決策をご提案します。