【第1回:プロジェクト概要と要件定義】
先日、お客様から次のようなご相談をいただきました。
「24点入力と8点リレー出力を持つ制御装置が廃盤になってしまい、代替品に困っている」
この装置は、基板上に24個の入力用ターミナルブロックを備え、 スイッチやセンサーの状態を監視できる構成になっています。
そして、入力の組み合わせ条件に応じて、 8点のリレー出力を自動制御する仕組みです。
例えば、
- 入力1と入力5が同時にONになったらリレー3をONにする
- 入力10がOFFになったらリレー1をOFFにする
といった条件制御が可能でした。
これらの条件制御ロジックは、基板に割り当てられたIPアドレスへブラウザでアクセスし、 管理画面から設定できる構成になっていました。

しかし、メーカーの生産終了により同等品の入手が難しくなっていました。 市場には代替候補となる製品もない状況でした。
そこで今回は、 既存製品と同等の機能を持つ装置を自作する という方針で、このプロジェクトをスタートさせました。
プロジェクトのゴール
今回の開発では、以下の点をゴールとして設定しました。
まず機能面では、廃盤となった既存製品と同等の制御機能を確実に再現することです。 次にコスト面では、特定メーカーの専用品に依存せず、汎用部品を用いることで量産時のコストを抑えることを重視しました。
また、回路構成はできるだけシンプルにし、部品点数を抑えることで故障リスクを低減しています。 さらに、将来的な修理や仕様変更にも対応できるよう、メンテナンス性・保守性も重要な要件としました。
本シリーズでは、こうした考え方を前提に、 プロトタイピング → 回路検証 → 基板設計 → 製造 という一連の流れを、全4回に分けて解説していきます。
本記事で使用する主な部品構成
今回の「LAN対応24ch入力×8chリレー制御装置」は、市販の汎用部品を組み合わせて構成しています。 回路設計や実装の詳細は次回以降で解説しますが、まずは全体像を把握しやすくするため、主要な部品構成を簡単に紹介します。
制御の中核にはRaspberry Pi Picoを採用しました。GPIO数が多く、SPIやI2Cといった必要な周辺機能を備えながら、入手性とコストのバランスに優れています。
有線LAN通信にはENC28J60を使用しています。SPI接続でEthernet通信を実現できる定番のLANコントローラで、低コストかつ回路構成がシンプルな点が特長です。
出力側は検証用途として16chリレーモジュールを使用し、そのうち8chを利用しています。量産時には、この構成をベースに専用基板化しています。
要求仕様の整理
まずは、お客様からいただいた要件を整理しました。
機能要件
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| 入力 | 24ch(ドライ接点入力、スイッチ・センサー接続) |
| 出力 | 8ch(リレー、AC250V 10A / DC30V 10A) |
| 通信 | LAN(UDP / HTTP)による制御・設定 |
| 制御方式 | 入力の組み合わせによるリレーの自動制御 |
| 設定UI | Webブラウザによる条件設定・状態監視 |
| 電源 | 標準プラグ入力(12V) ※12V / 24Vの両方で動作可能 |
電源は、当初想定していたUSB 5V給電ではなく、標準プラグによる12V入力を採用しました。 これは、接点入力部において「入力側に10V以上が必要」という要件が追加されたためです。
装置内部ではXL1509-5.0E1を用いて5Vへ降圧しており、Raspberry Pi Picoおよびリレー駆動系は安定した5Vで動作します。 また、現場の電源事情を考慮し、12Vだけでなく24V入力でも動作可能な設計としています。
制御系ICであるTCA6424Aには12Vを直接入力できないため、接点入力部はフォトカプラで絶縁しています。 さらに、フォトカプラの入力側には24V動作時でも過電流とならないよう抵抗値を設定し、電圧条件が変わっても安全に動作する構成としました。

条件制御の考え方
本装置では、PCのWebブラウザからLAN経由で装置にアクセスし、 「どの入力の組み合わせで、どのリレーをONにするか」をマトリクス形式で直感的に設定できます。
たとえば、入力1・入力6・入力12がすべてONのときにリレー1をONにする、といった条件を、チェックボックス操作だけで設定可能です。 設定内容は装置本体に保存され、以降はRaspberry Pi Picoが入力状態を常時監視しながら、自動でリレー制御を行います。
非機能要件
機能面だけでなく、運用面や保守面も重要な要素です。 低コストであること、部品の入手性が高いこと、回路構成がシンプルであること、そして将来的な修理や改修が容易であることを非機能要件として定義しました。
システムアーキテクチャ概要
システム全体は、ENC28J60によるLAN通信、Raspberry Pi Picoによる制御、TCA6424Aによる24ch入力管理、そして8chリレー出力という構成になっています。
PicoはSPI経由でENC28J60を制御し、I2C経由でTCA6424Aから入力状態を取得します。 取得した入力情報をもとに条件判定を行い、GPIOからリレーを制御すると同時に、Webサーバ機能もPico上で実装しています。
リレー駆動方式:ハイサイドスイッチ構成
本装置では、3.3VのGPIOで5Vリレーを安全に駆動するため、 フォトカプラによる絶縁とPNPトランジスタによるハイサイドスイッチ構成を採用しています。
この構成により、制御系と駆動系を電気的に分離でき、リレー側のノイズや異常電圧がマイコン側に回り込むリスクを低減できます。 また、フォトカプラがOFFの状態では必ずリレーがOFFになるよう設計しており、フェイルセーフ性も確保しています。
開発プロセス:段階的プロトタイピング戦略
いきなり基板を設計すると、想定外の不具合が発生した場合の手戻りコストが大きくなります。 そこで今回は、段階的にリスクを潰しながら進めるプロトタイピング戦略を採用しました。
最初はAmazonで購入できるモジュールを用いて、LAN通信やリレー制御が成立するかを確認しました。 次に、設計リスクの高いリレー回路のみをユニバーサル基板で検証し、動作や保護回路を確認しています。
その後、検証済みの回路をもとにEasyEDAで基板設計を行い、最後に電子回路設計の専門家によるレビューを受けて、ESD対策や電源デカップリングなどの改善を反映しました。
まとめ
第1回では、廃盤製品の代替開発に至った背景から、要求仕様、システム構成、開発プロセスまでを解説しました。
特に重要なのは、 「電源仕様を現場要件に合わせて柔軟に設計すること」、 「段階的に検証しながら開発を進めること」、 そして 「専門家の目を入れて品質を高めること」 です。
次回は、Raspberry Pi PicoとENC28J60を使ったLAN制御の実装方法について、 SPI通信の設定やUDP/HTTP制御の具体例を交えて解説します。
お問い合わせ
「この仕様で装置を作れないか」「別用途向けにカスタマイズできないか」
このようにお考えのお客様は、ぜひお気軽にご相談ください。 お客様の課題に合わせた解決策をご提案します。
